「うちの子、動物病院で貧血って言われてしまった…」
「愛犬・愛猫のこの症状はもしかして貧血?」
このアニポス公式ブログでは現役獣医師が飼い主さんの悩みを解決する記事を執筆しています。
犬や猫、ペットの動物たちも人と同じように貧血になります。
意外と知らないペットの貧血について、少し詳しくお話しします。飼い主さんはぜひ知っておきましょう。
もくじ
そもそも犬や猫の貧血とは?
・ヘモグロビンが行うはずの酸素運搬がうまくいかなくなる
・体中が酸素不足になった状態
「貧血」この言葉自体は日常生活でも使用されるので、馴染みのある言葉だと思います。
立ちくらみやめまいが生じた時に「貧血をおこした」といわれることがありますが、この場合は起立にともなって、一過性に脳の血流が減ったために起こるもので、本当の意味での貧血とは異なります。
では、本当の意味での貧血とはどういったものでしょうか?
貧血は一般的に以下のように定義されています。
一般的な貧血の定義
末梢血1中のヘモグロビン量が正常以下に減少した状態
ヘモグロビンとは、血色素とも呼ばれますが、赤血球に含まれるタンパク質で、酸素を運搬する機能を持っています。血液が赤く見えるのは、このヘモグロビンに赤色の色素が含まれるためです。
貧血では、赤血球の機能である酸素の運搬が障害されるために、体の組織での酸素不足が生じます。
貧血の診断のためには血液検査が重要ですが、血液検査を受けさせることになった飼い主さんのより深い理解のために、次は血液検査について解説したいと思います。
貧血の症状については、検査についての次の章で解説します。
犬や猫の貧血を調べるために重要な血液検査
血液検査は貧血の診断、病態把握のために重要な検査です。
血液検査は主に2つの目的があります。
血液検査の目的
・血液に含まれる赤血球・白血球・血小板などの量を測る
・新しい血液が正しく作られているかを測る
血液検査には、CBC、血液化学検査、血液凝固検査、血液ガス分析など、様々な種類がありますが、貧血の診断にはCBCが用いられます。
CBC|血液中の細胞を数える検査
CBCとはComplete Blood Countの略で、日本語では全血球計算、血算、血球数算定などと呼ばれます。要するに、血液に含まれる細胞(=赤血球、白血球、血小板など)をカウントする検査です。
一般的なCBCの検査項目を見てみましょう。なお、測定できる項目は検査機器によって異なります。
CBCの検査項目
赤血球の評価
・RBC(赤血球数)
・赤血球の数
・HCT(ヘマトクリット値)
・血液に占める赤血球の割合
・HGB(ヘモグロビン濃度)
・血液中のヘモグロビンの量(濃度)
・MCV(平均赤血球容積)
・赤血球1個の平均的な大きさ
・MCH(平均赤血球ヘモグロビン量)
・赤血球1個の平均的なヘモグロビン量
・MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)
・赤血球1個の平均的なヘモグロビン濃度
・RETIC(網状赤血球)
・網状赤血球(再生の指標)の数/割合
白血球の評価
・WBC(白血球数)
・白血球の数
・白血球分画
・白血球の各細胞の分類
血小板の評価
・PLT(血小板数)
・血小板の数
表:CBCの評価項目の一例
上の表のように、CBC検査により赤血球の詳細な評価が可能です。
貧血では、血液中の赤血球の減少(≒ヘモグロビンの減少)が見られるので、CBC検査においてはRBC、HCT、HGBの低下が見られます。
HCT|貧血の指標によく使われる項目
基本的にこの3項目(RBC、HCT 、HGB)の変動が示す意義は同じであり、HCTは%の単位で示されイメージしやすいので、貧血の指標としてはHCTがよく使われています。
PCV|HCTの代わりに使われることもある
ちなみに、CBCの項目として、HCTの代わりにPCV(=Packed Cell Volume)が使われることもあります。
厳密にはこれらの測定原理は異なるため、同一のものではありませんが、どちらも「血液中に占める赤血球の割合」を表しているため、実際には同じように使われています。
赤血球恒数|赤血球の大きさやヘモグロビン量を表す
少し細かい内容になりますが、CBCの項目のうち、MCV、MCH、MCHCは赤血球の大きさやヘモグロビン量を表すもので、赤血球恒数と呼ばれています。貧血がある場合に、この赤血球恒数により貧血を分類し、その原因としてどのようなものが疑われるかを判断します。
血液の再生性|貧血の重要な評価項目
赤血球恒数と同様に、貧血の際に重要となる評価項目として、血液の再生性があります。
血液の再生性とは
貧血している(=血液、特に赤血球が失われている)ときに、骨髄がそれに反応して血液を新しく作れているか?
血液の再生性とはその名前の通り、「貧血している(=血液、特に赤血球が失われている)ときに、骨髄がそれに反応して血液を新しく作れているか」ということです。
血液の再生性の例
例えば、外傷による出血によって貧血が生じている場合、体が貧血を感知し骨髄が反応することで、新しい赤血球がたくさん作られます。
その結果、若い(=作られて間もない)赤血球が血液中に多く放出されることになりますが、これらの若い赤血球は、RETIC(網状赤血球)や血液を顕微鏡で観察することで評価できます。
また、例えば腫瘍などで骨髄自体に問題がある場合は、貧血が生じても新しい血液を作ることが出来ず、再生性に乏しいと評価されます。
犬や猫の貧血の症状
貧血の症状
・元気・食欲がない
・呼吸が早い
・すぐ疲れる、動こうとしない
・歯茎などの粘膜が白っぽくなる
血液検査の項で説明したとおり、貧血を評価する上では再生性の有無が重要ですが、貧血の症状に関しては、貧血の程度(軽度か重度か)や経過(急性か慢性か)などが重要になります。
貧血の程度が軽い場合や、慢性で体が貧血に慣れている場合などは、ほとんど症状がないこともあります。
逆に症状がはっきりと出ている場合には、重度の貧血を起こしていることもあるので注意が必要です。
貧血の原因によっては他の症状を伴うこともあります。
貧血は再生性貧血と非再生性貧血の大きく2つ
貧血の分類と代表的な病気については以下のようになります。
再生性貧血とは?
再生性貧血
・出血による貧血(48~96時間以降)
・溶血(赤血球が壊れてしまう状態)
・免疫介在性溶血性貧血
・感染症
ヘモプラズマ症(猫)、バベシア症(犬)
・低リン血症
・薬物/中毒
再生性貧血とは、新しい赤血球が作られている場合の貧血です。
非再生性貧血とは?
非再生性貧血
・慢性疾患による貧血
・腎疾患による貧血(腎性貧血)
・骨髄疾患:腫瘍など
出血/溶血(最初の48~96時間は再生性が見られない)
・内分泌疾患による貧血
・副腎皮質機能低下症、甲状腺機能低下症
非再生性貧血とは、新しい赤血球がほとんど作られていない場合の貧血です。
多岐にわたる貧血の原因
貧血の原因はこのように多岐にわたり、原因の特定のために血液検査だけではなく、レントゲンや超音波検査のような画像検査や免疫学的検査、感染症の検査、骨髄検査、内分泌検査、麻酔下でのCT検査や内視鏡検査など、疑われる原因に応じて様々な検査が必要になります。
もちろん全ての貧血の患者さんに対してこれらすべての検査を行うわけではなく、貧血のタイプや程度、病歴や飼育環境から考えられる病気を順番に診断していきます。
まとめ
貧血とは病気の名前ではなく、ヘモグロビン量が低下した「状態」を示す言葉です。
そのため、「貧血がある」で終わるのではなく、その原因となる病気を診断していくことが非常に重要になります。
大切なワンちゃん、猫ちゃんが貧血と言われた飼い主さんはご心配だとは思いますが、まずはしっかりと検査を行い、原因となっている病気を獣医さんに診断してもらい、治療につなげていってもらいたいと思います。

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