今回は、「血尿」というテーマで、関連する病気について解説したいと思います。
まず始めに尿の異常についてお話しますが、
動物病院での一般的な尿検査では、
主に以下の点について異常がないかのチェックを行います。
表:一般的な尿検査の項目と正常・異常の場合に見られる所見

表の項目のうち、例えばpHや比重、蛋白の混入などは肉眼での確認は難しいでしょう。
しかし、尿中への血液混入は、目で見える変化なので来院理由としても非常に多く、これを読んでいる飼い主のみなさんもいつ出会うことになるかわかりません。
今日は尿中への血液混入について、獣医の立場から詳しく解説していこうと思います。

血が混ざっていると心配になりますよね。しっかりと頭に入れておきましょう。
もくじ
尿中への血液混入2種類〜「血尿」と「血色素尿」
赤い尿が見られる原因はいくつかありますが、
一般的には尿中に赤血球が混入する「血尿」と、
赤血球の色素が混入する「血色素尿」に大別されます。
このふたつは検査で区別することができます。
・血尿
泌尿器のどこかでの出血を意味しています。
炎症、感染、傷害、結石、腫瘍など様々な原因が挙げられます。
・血色素尿
溶血(血管内で赤血球が壊れること)により放出された色素(ヘモグロビン)が尿中に混入した場合に見られます。
多くは泌尿器自体には問題がなく、
溶血を生じる原因を様々な検査で探していく必要があります。
免疫の異常や中毒、感染症などの全身性疾患の場合が多いです。
犬や猫の血尿の原因となる病気
血尿の原因となる病気はたくさんありますが、
代表的な病気としては以下のようなものがあります。
また、犬と猫、雌雄で可能性の高い病気も異なります。
犬猫ともに多い病気「膀胱炎」
症状:血尿、頻尿
膀胱炎にはいくつかの種類がありますが、
共通して
血尿、頻尿といった症状が見られます。
メスの犬に多い「細菌性膀胱炎」
原因:細菌感染
治療:抗生剤
尿中に細菌感染が見られる「細菌性膀胱炎」は
猫より犬、オスよりメスでよく見られる病気です。
顕微鏡や培養検査で細菌を確認し、抗生剤による治療を行います。
注意点としては、
膀胱への細菌感染は再発が多いため、投薬期間が長くなる場合があること、
再発や治りにくい場合に何らかの要因
(例:椎間板ヘルニアなどの神経疾患による排尿困難、オムツを長時間つけていることによる陰部の汚れ、など)が関係していることがあり、その対応が必要になることなどがあります。
猫に多い「特発性膀胱炎」。オスは腎障害の危険も
原因:不明。ストレスや生活環境と言われる
治療:抗生剤・消炎剤・ストレス治療・環境改善など
猫では細菌性膀胱炎はあまり一般的でなく、「特発性膀胱炎」が多く見られます。
特発性とは、原因不明という意味で、
細菌の感染や結石などの他の原因が見られないのに、血尿や頻尿などの症状が見られる場合にこの診断名が用いられます。
原因や病態については、実はまだわからないことも多く、
最近ではストレスや生活環境の関与が大きいと考えられています。
なので、これまで一般的に膀胱炎の治療として使われていた抗生剤や消炎剤などの治療には完全に反応しない子も多く、その場合は生活環境の改善や、ストレスに対する治療が必要となります。
猫の特発性膀胱炎では、無治療でも数日で治るものもあり、治療が効いているかどうかの判断が難しいこともあります。
その場合には、その時の症状を抑えるというよりも、いかに再発を減らすかに焦点を当てて治療を行うこともあります。
幸いにもここ数年で、犬猫のストレスなどの行動学的問題に対して使用可能な薬やサプリ、フードが増えてきているため、それらを特発性膀胱炎の治療に用いることもあります。
また、特にオス猫の場合、尿道が狭いため、明らかな結石がなくても、炎症のみで尿道が詰まってしまうことがあり(=尿閉)、治療が遅れると腎障害を起こし命に関わることがあります。
犬も猫も場合によっては命に関わる「尿石症」
症状:血尿・尿が出にくくなる原因:体質や食事などを要因とした尿中での結晶・結石の形成
治療:外科手術・処方食など
尿中のミネラル成分が元となって結晶や結石ができる病気で、犬でも猫でもよく見られます。
肉眼レベルの大きさのものが結石、
顕微鏡で確認できるものが結晶と呼ばれます。
結石は腎臓、尿管、膀胱、尿道のどこでも見られることがあり、特に尿管や尿道などでは結石が詰まって尿が出なくなると命に関わることがあります。
膀胱結石では間歇的(=一定の期間で起こったり止んだりする)な血尿が見られることがありますが、これは結石が動くことで膀胱の内側を傷つけるためです。
治療は多くの場合外科手術が有効ですが、結石の種類によっては処方食による溶解が可能な場合があります。
結石や結晶ができる要因としては体質や食事内容、尿の状態(pHや細菌感染の有無)が重要で、再発予防のために処方食が使用されることもあります。
避妊・去勢をしていない子は要注意「生殖器疾患」
症状:血尿(または血尿に見える陰部からの出血)
原因:メス・・・発情出血や細菌感染
オス・・・前立腺のトラブル
治療:外科手術・薬など
メスでは発情出血を血尿と間違える場合があります。
また、子宮蓄膿症(細菌感染により、子宮に膿が貯まる病気)では陰部からの出血や排膿が見られますが、これが血尿のように見える場合もあります。
未去勢のオス犬では、前立腺肥大や前立腺炎といったトラブルにより血尿が見られることがあります。
治療は原因により様々ですが、
子宮蓄膿症では外科手術と抗生剤、
前立腺のトラブルでは去勢手術・前立腺を縮小させる薬(抗アンドロジェン薬)・抗生剤などが用いられます。
尿道閉塞の原因になる「膀胱腫瘍」
症状:血尿、排尿困難
原因:腫瘍
治療:外科治療や抗がん剤、一部の消炎剤
高齢の場合は膀胱の腫瘍の可能性も考えられます。
犬の膀胱腫瘍のうち一般的なものは「移行上皮癌」と呼ばれる悪性腫瘍で、膀胱の壁の部分を構成している細胞ががん化したものです。
尿中に腫瘍細胞が含まれることが多いので、
尿サンプルを用いた細胞診断や、遺伝子検査によって診断します。
腫瘍の大きさ、発生場所によっては膀胱の出口が塞がれて、排尿困難を生じることがあります。
割合は低いですがその他の腫瘍も発生することがあり、治療はがんの種類やどこまで広がっているかなどに影響されますが、移行上皮癌の場合は外科手術や抗がん剤、消炎剤(一部の消炎剤は直接がんに対する効果がある)を組み合わせた治療が行われます。
血尿に気がついたら、その他の症状にも注意しましょう
ここまで紹介したように、犬猫の血尿の原因には様々なものがあり、 中には命に危険が及ぶ場合もあります。
元気食欲の低下や、尿が出ていないなど、血尿以外の症状が見られる場合には特に注意が必要なので、普段から気をつけて見てあげてください。
気になることがあったら、すぐに獣医師に相談してくださいね。

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