生活習慣病として広く認知されている糖尿病。これを読んでいる方も、「実は私も・・・」という方もおられるかもしれません。
この糖尿病、実は人間だけでなく、犬や猫も糖尿病にかかることは、ご存知でしょうか。
せっかくの機会なので、今回は、人の糖尿病についてのお話も織り交ぜながら、その仕組や診断について解説してみようと思います。
糖尿病は、膵臓で作られるホルモン・インスリンと密接な関係があるため、まず膵臓の働きについてお話してから、犬の糖尿病について、人の糖尿病との類似点・相違点を踏まえて解説していきます。
もくじ
膵臓と糖尿病の関係
膵臓には、主にふたつの機能があります。
外分泌機能・・・膵液という消化液を作り、体外(消化管)へ放出することで消化を助ける
内分泌機能・・・血糖値や消化液の量を調節するホルモンを体内(血管)に放出する
膵臓は内分泌機能として、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチンなどのホルモンを放出しますが、このうち、インスリンだけが血糖値を低下させます。
このホルモンの分泌や働きに問題が生じることで、糖尿病が発症するのです。
人間の糖尿病
ヒトの糖尿病は大きく4つに分類されますが、糖尿病患者の多くは、以下の1型、2型によるものです。
- 1型糖尿病
糖尿病の約5%を占め、若い方を中心に幅広い年齢で発症します。
インスリンを作るβ細胞が破壊されることでインスリン不足に陥っているので、治療には基本的にインスリン注射が必須となります。
- 2型糖尿病
ヒトの糖尿病の約90%を占め、一般的な糖尿病とされています。
遺伝的素因によるインスリン分泌能の低下に、環境的素因(生活習慣の悪化)に伴うインスリン抵抗性が加わって発症します。
中高年の患者さんが多く、初期には肥満などによるインスリン抵抗性が生じるために、治療として食事療法や経口血糖降下剤が選択されます。
次第にβ細胞の疲弊・減少が見られると、インスリン不足に陥り、治療にインスリン注射が必要となります。
人間の糖尿病の分類:表1
Ⅰ.1型糖尿病(膵β細胞の破壊 → 通常インスリンの欠乏を引き起こす)
1. 自己免疫性
2. 原因不明(特発性)
Ⅱ.2型糖尿病
1. インスリン分泌低下
2. インスリン抵抗性
Ⅲ.その他の特定の機序、疾患による糖尿病
1. 遺伝子異常が解明されたもの
●膵β細胞機能やインスリン作用にかかわる遺伝子
2. その他の疾患や状態に伴うもの
●膵外分泌不全、内分泌疾患、肝疾患、感染症など
Ⅳ.妊娠糖尿病
●妊娠中に発病あるいは発見された耐糖能異常
2種類ある犬の糖尿病
それでは、犬の糖尿病について見ていきましょう。
犬の糖尿病は、
膵臓β細胞の減少や破壊を原因とする永久的なインスリン欠乏によるものと、
インスリンの量は充分にあるもののその効果を発揮できない、インスリン抵抗性を起因とするものの2つに大別されます。
表2には、犬のそれぞれの糖尿病を引き起こす原因として報告されているものをまとめてみました。
遺伝的要因
免疫介在性のβ細胞破壊 インスリン欠乏を生じる
膵炎
肥満や高脂血症
他の内分泌疾患:クッシング症候群など
薬剤:ステロイド、プロジェステロン製剤 インスリン抵抗性を生じる
感染
β細胞の減少や破壊を引き起こすものとしては、
特発性(原因不明)や免疫介在性、膵炎に続発するものなど、
インスリン抵抗性を引き起こすものとして、他の内分泌疾患によるもの、妊娠や発情によるもの、医原性(インスリン抵抗性を引き起こす薬剤の投与)のものがあります。
さて、人間の糖尿病の場合、インスリンを作るβ細胞が破壊された1型糖尿病の場合に主にインスリン注射が必要でしたが、犬の糖尿病の場合は、糖尿病を引き起こした原因に関わらず、治療には主にインスリン注射が必要となります。
使用している薬の中止や、発情、妊娠に対する避妊手術によってインスリン抵抗性の原因を取り除くことが可能となり、インスリン注射が必要なくなる(糖尿病が寛解する)子もいますが、実際に治療をしてみないと判断することは出来ません。
また、犬では肥満はインスリン抵抗性の原因となり得ますが、肥満が糖尿病の直接の原因にはならないとされています。
犬の糖尿病の症状とメカニズム
気をつけたい症状は、多飲、多尿、体重減少
糖尿病の一般的な症状として、多飲、多尿、体重減少がありますが、こういった症状が見られる病気は他にもたくさんあります。
動物病院では糖尿病を含め、一般的な検査で病気の診断が可能なので、いずれにせよ
早めに動物病院に相談することをおすすめします。
また、糖尿病が治療されず経過してしまうと、元気食欲の低下、下痢、嘔吐などがみられることがあります。
このような場合では、一刻も早い診断、治療が必要となります。
多飲の基準は
ちなみに病的な多飲は動物の場合、
一般的に100ml/kg/日(例:5kgの犬であれば一日あたり500ml以上の飲水があれば多いと判断)という基準がよく使われます。
多飲を引き起こす病気は糖尿病以外にもたくさんありますので、色々な検査によって調べていく必要があります。
多尿になるメカニズム
糖尿病の分類で述べたように、糖尿病では何らかのメカニズムによって、インスリンが不足、あるいは機能出来ない状態になっています。
これによって、血糖値を正常に保つことができなくなり、高血糖が生じます。
犬では血糖値が約180~200mg/dl(正常ではおよそ80~130mg/dl)を超えると尿中の糖分(=尿糖)が検出されるようになります。
尿中の糖分は、強力に水を引き込むことで、尿量を増加させます(浸透圧利尿)。
これにより著しい多尿が生じ、脱水傾向に陥ることで、飲水量の増加も生じます。
食べているのに痩せてしまう糖尿病
もう一つの典型的な症状が体重減少ですが、これを理解するためにはインスリンの働きを理解する必要があります。
「インスリン=血糖値を下げるホルモン」
ということは多くの方がご存知と思います。
血糖は重要な細胞のエネルギー源ですが、インスリンはこの血糖が細胞に取り込まれるときの「鍵」のような働きをします。
つまり、インスリンは単に血液中の糖分を下げるのではなく、血糖が細胞に取り込まれて、エネルギー源として使われる手助けをしているのです。
糖尿病の患者さんの体内では、インスリンがうまく働けないために、血糖を中心とするエネルギー代謝もうまく働けず、「食べているのに痩せる」といった現象が生じます。
毛艶の悪化が目立つ子もいます。
高血糖が命を脅かす場合も
糖尿病の基礎疾患として、
膵炎や他の内分泌疾患(クッシング症候群など)、医原性(薬物の投与)などがありますが、それらの基礎疾患がある場合は、それらに特徴的な症状がみられることもあります。
また、糖尿病の患者さんが
インスリン治療を受けずに、著しい高血糖状態が続くと、糖尿病性ケトアシドーシスという合併症を引き起こすことがあります。
この病気は糖尿病にさらなる代謝異常が加わった急性の病態で、元気消失・食欲不振・嘔吐を生じ、ぐったりして命に関わることもあります。
犬の糖尿病の診断
犬の糖尿病の診断には、以下の3つが用いられます。
● 典型的な臨床症状
● 空腹時高血糖
● 尿糖
まず、
典型的な症状としては、上述の多飲・多尿・体重減少を確認します。
空腹時高血糖や尿糖については、一過性の場合もあるため、持続的に(複数回の検査で確認する)異常を示していることを確認する必要があります。
ヒトと同様、犬でも血糖マーカー(糖化アルブミンやフルクトサミンなど)と呼ばれる、持続的な高血糖を検出できる検査があるため、それらを利用することもあります。
糖尿病の診断については、そこまで複雑ではありませんが、全身状態の評価や合併症の把握のため、一般的な血液検査や、画像検査(レントゲンや超音波検査)、尿検査などが診断時に実施されることが多いと思います。
他の疾患(特に炎症/感染性の疾患や、他の内分泌疾患)がある場合はインスリン治療に影響する可能性があるため、診断時の把握がとても重要になります。
また、糖尿病では尿路感染が起きやすいため、尿検査では尿糖の確認だけでなく、感染の有無についても評価する必要があります。
まとめ
今回は、人間の糖尿病の基礎知識も交えながら、犬の糖尿病における病態と診断についてまとめました。病態としては複雑で難しい内容になってしまいますが、インスリンの働きを理解することは、続く治療においても重要です。
糖尿病の診断についてはあまり難しいことはなく、ほとんどの動物病院の設備ですぐに診断を下すことが可能ですが、糖尿病の管理を成功させるためには、全身状態や併発疾患をどこまで把握できるかが非常に重要になります。

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