「フィラリア」という名前を聞いたことのある人は多いでしょう。
犬を飼っている人なら、動物病院で定期的に予防薬の処方を受けているかもしれません。では、フィラリアとはいったい何でしょうか?
このアニポスブログは現役の獣医師が飼い主さんの悩みを解消する記事を執筆しています。この記事を読むと、犬と暮らすには欠かせない「フィラリア」について理解を深めることができます。
「フィラリア」について、その正体から感染経路、治療まで詳しくお話します。
もくじ
フィラリア症とは?
フィラリアは寄生虫の一種で、糸状虫と呼ばれることも。
一般には犬に寄生する犬糸状虫(学名:Dirofilaria immitis)を指すことが多いので、今日はこの犬糸状虫をフィラリアとしてお話をすすめたいと思います。
フィラリアは、糸のような細長い線状の寄生虫。犬だけでなく猫やフェレットなど哺乳類全般に感染し、ごく稀ですが人間にも感染することがありますが、実は犬は、フィラリアの寄生に最も適した動物。
そのためフィラリアにかかった犬を無治療のままにしておくと、主に肺動脈(心臓から肺へ向かう血管)へ寄生した成虫がどんどんと増えて、1頭の犬の体内に数百隻のフィラリアが寄生する場合もあるのです。
フィラリアはどこから感染するの?
ではフィラリアはどこからやってくるのでしょうか。
フィラリアは犬から犬へと直接ではなく、蚊を媒介にして感染を広げます。
感染した犬の体内で成虫に成長し、生殖を行って生まれた無数の幼虫ミクロフィラリアが血液に乗って体中の血管を移動。
蚊がこの犬を吸血すると、血の中にいた幼虫は蚊が血を吸う際に使う口の部分(口吻)に入り込み、それが次の犬を吸血する際に犬の体内に入り込み、それが成虫となって・・・という蚊を介しての感染サイクルが完成するのです。
一度成虫となったフィラリアは、犬の体内で5~7年生きると言われています。
つまり予防や治療をしなければ、毎年蚊の季節になる度にどんどん感染数が増えていくことになりかねないのです。

蚊を通して感染してしまいます。
フィラリアに感染するとどうなるの?
犬がフィラリアに感染しても、早期では無症状またはごくわずかな症状しかありません。
しかし、感染が持続することで、長引く軽い咳、運動を嫌がる、運動後の疲労、食欲不振、体重減少など、よりはっきりとした症状が現れ始めます。
フィラリアの成虫は、主に肺動脈に寄生するため、進行すると肺動脈や心臓で血液が流れにくくなり、心不全を起こしやすい状態に。そのため血液が鬱滞し、お腹に水が溜まってしまい、膨れ上がることもあります。また、寄生数が多い犬の場合、フィラリアが心臓内での血液の流れを遮ってしまい、尿が濃い褐色になり、口の中などの可視粘膜の蒼白、突然の呼吸困難などの症状が出る、大静脈症候群という重篤な状態に陥る場合も。
外科手術を行ってフィラリアを摘出しない限り、ほとんどの犬が助からないほどの深刻な状況となってしまうのです。
フィラリアは、たかが寄生虫、とは間違っても言えない、愛犬の命を脅かすほどの感染症なのです。
フィラリアに感染した場合の3つの治療法
残念ながらフィラリアに感染してしまった場合は、専門的な治療が必要となります。
フィラリアが疑われる症状がある場合、まずは獣医師に相談し、診断を確定させることが必要です。単一で100%の精度をもつ検査方法は存在しないため、抗原検査、ミクロフィラリア検査、心臓超音波検査など複数を組み合わせた検査でフィラリアと診断された場合、外科手術による虫体の摘出、薬剤による成虫駆除、予防薬の長期投与などの治療が行われます。
1.成虫駆除
大静脈症候群にまでは至っていない犬の場合は、国内販売が行われていないために、獣医師が個人輸入を行って購入する必要があるアメリカの治療薬「メラルソミン」による成虫駆除が推奨されています。
2.予防薬
また、予防薬を長期投与して血中の幼虫・ミクロフィラリアを退治(成虫は駆除できない)し、新たな感染を起こさせないようにしながら5~7年かけて成虫の寿命を待つ方法では、自然に成虫が減少することが期待できます。しかし時間をかけている間にも肺動脈のダメージが進むため、治療終了後も難治性の肺高血圧症が続いたり、フィラリアに対する体の免疫反応の結果腎疾患を起こしてしまうこともあります。
3.外科手術
寄生数の多い場合は、外科手術を行う可能性がありますが、基本的には大静脈症候群を呈している際の緊急処置であり、全身麻酔などによる合併症のリスクがあります。
フィラリアに感染しないために
国内で治療薬が販売されていないこともあり、現在の日本では、フィラリアになったからすぐに簡単に治療を行う、というわけにはいきません。
また、症状が出ないまま何年も過ごしてきたことで血管のダメージが蓄積し、治療後も症状が改善しない場合もあり、たとえ治療を行ったとしても、一度かかってしまうと犬にとっては辛い日々が続くことになってしまいます。
その意味でも、フィラリアに対しては、まず予防が一番大切なのです
「蚊に刺されるのを防ぐ」ではなく「フィラリアが増殖するのを防ぐ」
フィラリアの感染地域では蚊の2~19.4%がフィラリアを体内に持っており、感染した犬のいる施設にいた蚊だと、なんと74%もの蚊がフィラリアを持っていたという報告もあります。フィラリアの感染リスクはそれほど高いものですが、もちろん絶対に犬が蚊に刺されないようにする、ということは不可能です。
フィラリアを予防するには、「フィラリアが体内に侵入しないよう蚊に刺されるのを防ぐ」のではなく、「体内にフィラリアが入ってくることを前提に、体内で産まれた幼虫が成虫となる前に定期的に駆虫を行っていく」、という方法が最も正しい予防策となります。
地域によって差はありますが、犬が蚊にさされやすくなる蚊の出現時期から、いなくなった翌月ごろまで、毎月予防薬を服用する、もしくは年1回の予防注射を接種するようにしましょう。
まとめ
身近にありながら感染すると恐ろしいフィラリア症について、知っていただくことができたでしょうか。
予防することでほぼ確実に防げる病気であるため、ペットに健康な生活を長くしてもらうためにも毎年忘れずに予防をしていきましょう。

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参照文献:
Current Canine Guidelines for the Prevention, Diagnosis, and Management of
Heartworm(Dirofilaria immitis) Infection in Dogs;American Heartworm Society. 2020