猫専門病院の獣医師として日々診療を行っていると、病気だけではなく、お手入れについての相談がとても多く寄せられます。
猫のお手入れといえばまず思い浮かぶのは「爪切り」ですが、時代の流れと共に長毛猫の割合が増えているのか、「毛玉」に関するお問い合わせも年々増えているようです。
もくじ
猫も獣医師も辛い、病院での毛玉取り
実は、「爪切りをさせてくれない」猫と「毛玉ができやすい」猫は、共通している場合がほとんど。
「体に触らせてくれない子」はどうしても毛玉ができやすくなってしまうからです。
小さい毛玉なら少しほぐせば取れるのですが、やっかいなのは、脇や内股にガッチリとフェルト状に固まった毛玉。皮膚は毛玉に引っ張られた状態なので、当然痛みを伴い、猫ちゃんにはとても不快な状態です。
お家で触らせてくれないねこちゃんが、病院で触らせてくれるはずもありません。
処置は、獣医師や動物看護師が数人がかりで保定して動かないようにして、バリカンをかけて行います。
猫ちゃんはもちろん嫌がりますよね。
わたし達も辛いのですが、これをほうっておくと皮膚病になってしまうこともあるので、心を鬼にして行います。
麻酔をかけて処置を行うこともあります。
「毛玉問題」は、「猫に触らせてもらえない問題」
・・・さて、ここまで読んで、『よし、それなら動物病院で毛玉を取ってもらえば毛玉問題は解決だ!』という感想を持った方は少ないのではないでしょうか。
こうならないために自宅でケアできるのが、ベストですよね。
ところが実際のところ「ブラッシングをさせてもらえなかった」と、毎日のように予約が入っているのが現実。
ちゃんと触らせてくれる子ならブラッシングができるから、毛玉はできないはずなのに・・・。
つまり「毛玉問題」を解決するために必要なのは、
1に「触らせてくれる子」になってもらうこと、2にブラッシングのコツ、というわけです。
1.触らせてくれる子にするには
ブラッシングなどのお手入れをしやすくするためには、日頃のトレーニングが必要です。
これは、若ければ若いほど早く慣れてくれるので、子猫のうちがチャンスです。コツは『お手入れが楽しいものだと覚えさせる』こと。
一番一般的で使いやすいツールは、おやつです。ペースト状で小分けになっている物は特に便利です。
トレーニング方法(例:爪切り)
●簡単編 ペアで行います。爪切りをするのと同時に、もうひとりがおやつをあげます。
●根気編 少し根気が必要な方法で、ステップを区切りながらおやつをあげていきます。「手を触る→おやつ」「爪切りを見せる→おやつ」「爪を1本切る→おやつ」と小分けにしてひとつひとつの行動に慣れさせていく方法です。
後者の方がより効果的ですが、もちろん手間がかかりますので、実際に取り入れられる方法を試してみてくださいね。
詳しく知りたい方は、
「キャットトレーニング」「ハズバンダリートレーニング」などのキーワードで調べてみると良いですよ。
2.毛玉問題を解決するブラッシングのコツ
猫の身体に毛玉を作らないためには、言うまでもなく日々のブラッシングが不可欠です。
しかし「ブラッシングをしているのに毛玉ができてしまった」と相談を受けることもあります。
この原因はブラッシングのやり方にあります。
毛玉は抜けきれなかった深層の毛
たとえブラッシングを行っていても、表面をサッと撫でただけにとどまっているのでは意味がありません。
なぜなら、毛玉の元凶はもっと深層にあるフワフワの綿毛のような毛
「アンダーコート」がメインだからです。
このアンダーコートは、他の一般的な毛と同様に周期を持っていて、寿命がきたら抜け落ちます。
しかし、抜けているのに体表にとどまってしまうと、体表で絡まってフェルトのようになってしまいます。これが毛玉の正体です。
ブラッシングは根元までが鉄則
そこで被毛の根元までしっかりブラッシングして、この『抜け落ちる予定の毛』(死毛といいます)を取り除いてあげる必要があります。
これがブラッシングの意義です。
ブラッシングをする時には根元までクシやブラシを入れてしっかり梳かして、死毛を取り除きましょう!
死毛を効果的に取り除くためのブラシも市販されています。
適切なブラシは被毛の長さによって異なるので、購入の際はできればショップで相談して選びましょう。
どうして?短毛種なのに毛玉ができる
短毛種の子でもたまに毛玉ができる子がいますが、 原因は 肥満や加齢により毛づくろいがうまくできなくなってしまったことがほとんど。
猫は日頃の毛づくろいで上手に抜け毛を処理しています。この場合は、毛玉についてだけでなく、健康状態についても獣医師に相談すると良いでしょう。

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著者・谷口 史奈先生のプロフィール
動物病院3年、猫専門病院2年半勤務し、2016年8月に東京都品川区東中延に猫専門病院「猫の診療室モモ」を開院・同院長を勤める。猫の飼い主向けの講演・セミナー活動や、猫に特化した雑誌・サイトやメディアの監修や、コラムの執筆など、精力的に活動中。