人と同様、動物でも多い病気が心臓病です。
心臓病はいくつか種類がありますが、犬では小型犬には僧帽弁閉鎖不全症、大型犬には拡張型心筋症が多く見られます。
このアニポスブログでは現役獣医師が飼い主さんのお悩みを解決する記事を執筆しています。この記事を読むと拡張心筋症について理解を深めることができます。
愛犬の身体の中でどんなことが起きているのか、そして、どんな治療が行われ、どう予後を過ごしていけばいいのか。大型犬に多い拡張型心筋症にスポットライトを当ててお話ししていきます。
もくじ
心臓病の分類:心筋症とは
まず、心臓の構造について見ていきましょう。

この図のように、心臓は上下(心房と心室)、左右(右心と左心)の4つの部屋から出来ており、心房と心室の間、心室と動脈の間には、それぞれ
逆流を防ぐための弁があります。
動物の心臓病にもいろいろな種類があり、問題の生じる部位によって大別することが出来ます。

犬の拡張型心筋症とは?
心臓の筋肉(=心筋)自体に変性が起こり、心機能に異常を来すものが、心筋症と呼ばれます。
人の心筋症同様、いくつかのタイプがありますが、一般的なものとして、拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症があり、それぞれ以下のような特徴があります。
拡張型心筋症 | 肥大型心筋症 | 拘束型心筋症 |
・大型犬で多くみられる | ・猫で一般的な心筋症 | ・猫で稀にみられる |
・心室拡大、収縮低下 | ・心筋の肥厚が特徴 | ・心拡張機能の低下 |
拡張型心筋症では、
心筋が非常に薄くなってしまい、収縮力が低下しそれによってうっ血性心不全などが引き起こされます。
心筋の変化やうっ血による心拡大により、心臓の刺激伝導に異常が生じることで、不整脈も起こりやすくなるとされています。
犬の拡張型心筋症の発症の傾向
大型犬に多く見られ、ドーベルマンやボクサーなどの犬種に発症しやすいとされています。
6~8歳頃に発症することが多く、雌より雄で多いと言われています。
犬の拡張型心筋症の原因
病気の原因として、栄養的な問題や、遺伝的な原因などが考えられていますが、今の所明らかな原因は不明です。
甲状腺機能低下症など、心臓の収縮機能の低下を引き起こす疾患が原因となることもあります。
犬の拡張型心筋症の症状
他の多くの心臓病と同様に、初期には症状は無く、進行するにしたがって目に見えて症状が見られるようになります。
臨床症状としては、うっ血性心不全(血液のうっ滞による)や心臓から血液を十分に送り出せないことによるもので、呼吸困難、肺水腫、失神、運動不耐性、胸水、腹水、不整脈、などが見られます。
また、明らかな症状が認められない段階であっても、突然死を起こすこともあります。
犬の拡張型心筋症の診断
心筋症の確定診断は、一般的には画像診断、主に心臓エコー検査によって診断されます。
・心臓エコー検査
拡張型心筋症の診断に最も有用なのは心臓エコー検査です。
近年では海外の心臓病学会のガイドラインを参考に、細かい基準に基づいて診断されることもありますが、最も重要な所見として、心臓の収縮力の低下を検出します。
エコー検査では、診断以外にも心臓の細かい状態の把握が可能です。
拡張型心筋症では心筋の菲薄化、心内腔の拡大、弁逆流などの異常所見がよく認められます。
その他にも次のような検査で、全身状態や心臓の状態を把握していきます。
・身体検査
無徴候の時期では特に異常は認められません。
一方肺水腫や胸水がある場合には、呼吸困難、腹水がある場合には腹部の膨満がみられることがあります。
・聴診
病気の進行にもよりますが、心雑音や不整脈が聴取されることがあります。
・レントゲン検査
心臓の拡大が特徴的な所見であり、その他にも肺水腫、胸水貯留、腹水貯留などがある場合は、レントゲン検査で確認することができます。
・心電図検査
この病気では各種の不整脈が見られることも多く、それらの検出のために、心電図検査が行われることもあります。
・血液検査
拡張型心筋症の診断は出来ませんが、近年利用されているNT-proBNPなどの心臓バイオマーカーは、心拡大や心筋への負担の程度を反映するとされており、補助的に利用されることがあります。


犬の拡張型心筋症の治療
拡張型心筋症の治療に使用される薬剤の例を、表にしています。
薬の種類 | 薬剤名 | 特徴 |
利尿薬 | フロセミド トラセミド スピロノラクトン | 急性心不全(胸腹水、肺水腫)では積極的に使用する 慢性期には必要最低量で使用 |
強心薬 | ピモベンダン ドブタミン | 心臓の収縮力を高めるために使用する 急性期、慢性期ともに有効 |
降圧剤 | ベナゼプリル カルペリチド | 血圧を下げることで心臓の負担を軽減する 低血圧に注意が必要 |
抗不整脈薬 | ジゴキシン アテノロール ジルチアゼム リドカイン メキシレチン | 不整脈がある場合に必要に応じて使用 |
心筋症は本来「心筋」の変性なので、それ自体を治療できればいいのですが、
もちろん現実的ではありません。
根本的な心筋変性の状態についても不明なことが多いので、
治療は、確認されている心臓の異常それぞれに対応する形となります。
(拡張型心筋症に関する異常と対応する治療)
●収縮不全:強心薬(ピモベンダンなど)
●うっ血性心不全:利尿薬(フロセミドなど)、降圧剤(ベナゼプリルなど)
●不整脈:抗不整脈薬(アテノロールやジルチアゼムなど)
また、病気の進行に応じて、症状が出ていない無徴候期と徴候期に分けられますが、これらの病期によっても、考慮される治療が異なります。
・症状が出ていない無徴候期
無徴候期の治療の目的は、病気の進行や発症を遅らせることにあると考えられています。
特定の犬種においては、この時期の治療が有効であるという報告がありますが、実際にはまだデータが少なく、治療の実施についてはそれぞれの患者さんの状態に応じて慎重な判断が必要となります。
この時期によく使用される薬には、ACE阻害薬(ベナゼプリルなど)、ピモベンダンなどがあります。
・症状がある徴候期
うっ血性心不全による肺水腫、胸水、腹水などが見られる時期で、利尿薬、強心薬、降圧剤(血管拡張薬)の積極的な使用が必要となります。
胸水や腹水の多量の貯留により呼吸困難が生じている場合には、胸腔/腹腔穿刺(針を刺して、直接貯留している液体を抜くこと)を行うこともあります。
急性期か慢性期かに応じて、注射薬/経口薬を使い分けて治療を行います。
犬の拡張型心筋症の予後
犬の拡張型心筋症の予後は根本原因により様々で、無徴候期から徴候期まで数年かかる場合もあります。
症状の発現が早いこと、うっ血性心不全(肺水腫、胸水、腹水)、不整脈などが予後不良因子とされています。
一般的には予後の悪い疾患とされており、1997年の報告では、うっ血性心不全を発症した拡張型心筋症の犬(38犬種189頭)において、一年生存率は17.5%、二年生存率は7.5%とされています。
まとめ
犬の拡張型心筋症は多い疾患ではありませんが、臨床症状が見られない場合でも突然死する可能性がある、比較的予後の悪い疾患です。
また、定期検査や治療が長期に必要となることもあり、大型犬に好発することからも、治療費が問題となることもあります。
心配が多いこととは思いますが、かかりつけの先生とよく相談して、検査の頻度や治療方針について決定していくといいでしょう。

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