犬の心臓病にはいくつか種類がありますが、僧帽弁閉鎖不全症という小型犬に多い心臓病があります。
もしかしたら動物病院で愛犬が診断された飼い主さんもいるかもしれません。
このアニポス公式ブログでは現役獣医師が飼い主さんの悩みを解決する記事を執筆しています。この記事を読むと小型犬に多い、僧帽弁閉鎖不全症について理解できます。
愛犬の身体の中でどんなことが起きているのか。どんな治療が行われ、どう予後を過ごしていけばいいのか。
小型犬に多い僧帽弁閉鎖不全症にスポットライトを当ててお話します。
もくじ
そもそも犬の心臓の構造はどうなっているの?
まず、心臓の構造について見ていきましょう。

この図のように、心臓は上下(心房と心室)、左右(右心と左心)の4つの部屋から出来ており、心房と心室の間、心室と動脈の間には、それぞれ逆流を防ぐための弁があります。
動物の心臓病にもいろいろな種類がありますが、問題の生じる部位によって大別することが出来ます。
心筋の病気と心臓弁の病気〜僧帽弁閉鎖不全症は、「心臓の弁」の病気
心臓の筋肉(=心筋)自体に変性が起こり、心機能に異常を来すものは、心筋症と呼ばれます。
心筋症の確定診断には、組織学的診断(実際に心筋の組織を採取し、病理医が診断する)が必要ですが、実際に生前に組織診断を行うのは難しいので、一般的には画像診断、主に心臓エコー検査によって診断されます。
心筋症には人と同様、いくつかのタイプがありますが、代表的なものとして以下の3つがあります。
拡張型心筋症 | 肥大型心筋症 | 拘束型心筋症 |
・大型犬で多くみられる ・心室拡大、収縮低下 | ・猫で一般的な心筋症 ・心筋の肥厚が特徴 | ・猫で稀にみられる ・心拡張機能の低下 |
一方小型犬で多い僧帽弁閉鎖不全症は、左心房と左心室の間にある弁の異常により、血液の逆流を生じる病気です。
同様の異常が右心房と右心室の間にある三尖弁で生じたものは、三尖弁閉鎖不全症と呼ばれます。
また、動脈弁あるいはその周囲で狭窄が起こり、血流の異常が生じる病気として、大動脈狭窄症や肺動脈狭窄症があります。
これらの病気は、心臓の弁の問題と言うことができます。
犬の僧帽弁閉鎖不全症とは?
この病気はその病名の通り、僧帽弁と呼ばれる心臓内の弁の問題です。
心臓は上下・左右の4つの部屋に分かれており、心臓に戻ってきた血液を心房で受け取り、その血液は心室を通って心臓から送り出されます。
心臓の右側と左側はそれぞれ肺と全身へのループを形成しているため、血液の流れとしては(右心室→肺→左心房→左心室→全身→右心房→右心室→)となります。
僧帽弁は左心房と左心室の間にある弁であり、通常は血液の逆流を防ぎ、一方向のみに流れるように機能しています。
この僧帽弁に変性が起こることで(粘液腫様変性と呼ばれます)、弁の閉鎖が不十分になり、血液の逆流が生じます。
この状態が「僧帽弁閉鎖不全症」や「僧帽弁逆流症」です。
血液の逆流は心臓への負担となり、心臓のポンプとしての働きを邪魔してしまいます。進行とともに、心臓への負担による心拡大や、血液のうっ滞によるうっ血性心不全などが見られるようになります。
犬の僧帽弁閉鎖不全症の発症の傾向
僧帽弁閉鎖不全症は、
中高齢以降の小型犬に多く、10歳以上の小型犬の30%以上が罹患し、犬全体での罹患率は中高齢以降でおよそ5-10%程度がかかる、犬でもっとも多い心臓病です。
小型犬の人気が高い日本では、チワワ、マルチーズ、トイ・プードル、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア、ミニチュア・ダックスフント、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、シー・ズーなどの犬種でこの病気がよく見られます。
愛犬がこういった犬種の場合は特にですが、他の犬種においても、
中高齢以降では、ホームドクターでの定期検診や各種予防接種などの際に、しっかりと聴診をしてもらい、この病気の発見につなげることが重要になります。
犬の僧帽弁閉鎖不全症の原因
僧帽弁に変性が起こることで、正しく閉鎖できなくなることが血液の逆流の原因となります。
特定の犬種がこの病気になりやすいことから、遺伝的な要因が関係していると考えられていますが、なぜ変性が起こるのかについてはまだわかっていません。
犬の僧帽弁閉鎖不全症の症状
初期では症状はほとんどありませんが、進行とともに、疲れやすくなる、遊びや散歩の時間が短くなるなどの症状が現れます。
咳が見られたり、その頻度が増えるのも悪化の徴候です。
さらに進行すると、血液のうっ滞により肺に水が染み出す肺水腫を発症することがあり、この状態になると呼吸困難の症状まで示すようになります。
重度なものや、治療への反応が乏しいものでは、呼吸困難や不整脈、臓器の低酸素により死亡につながることがあるほどです。
犬の僧帽弁閉鎖不全症の診断
中高齢以降の小型犬で特徴的な心雑音が聴取されれば、この病気であることがほとんどです。
しかし聴診のみでは診断や、重症度の評価は出来ないため、他の検査(レントゲン検査、超音波検査、血圧測定、心電図検査など)を併用します。さらに、他の疾患の把握や、心臓以外の臓器の機能の確認のため、血液検査や尿検査なども行われます。
僧帽弁閉鎖不全症の診断・評価に一番有用な超音波検査について以下に示していますが、超音波検査では診断だけでなく、心拡大や血流の詳細な評価も可能なため、「治療」の項で説明するステージ分類について必要な情報も得ることができます。
犬の僧帽弁閉鎖不全症の治療
重症度の分類
表:ACVIMガイドラインによる犬の僧帽弁閉鎖不全症のステージ分類

人間の病気で重症度をステージで言い表すように、犬の僧帽弁閉鎖不全症では、米国の獣医内科学会(ACVIM)のガイドラインが一般に使用され、治療もそれに準じて決定されています。
ただし、それぞれの治療に関して、科学的な裏付けの程度や専門家の意見が完全に一致しているわけではないので、それぞれの患者さんに対して最適な治療が選択されています。
下に、それぞれのステージにおいて推奨される治療について表にしました。もしもの際の、飼い主さんの理解の参考にしてください。
表:ACVIMステージと推奨される治療

犬の僧帽弁閉鎖不全症の予後
動物の心臓病の予後(病気の経過についての見通し)については、その進行にかなり個体差があります。
僧帽弁閉鎖不全症の犬の心臓死に関するリスク因子として、高齢、失神、心拍数の上昇、呼吸困難、不整脈、心拡大やE波の上昇(E波とはエコー検査で測定することのできる、心臓内の血液の流れです)などが挙げられています。
また、僧帽弁閉鎖不全症の経過として重要なポイントの一つとして、肺水腫の発生があり、肺水腫などの心不全兆候を呈した場合、残念ながら余命は1年程度とされています。
まとめ
僧帽弁閉鎖不全症の治療には、外科治療と内科治療があり、外科治療はまだ一般的では無いものの、唯一の根治可能な治療法であり、今後実施可能な施設は増えていくでしょう。
一方、現在多く選択されている内科治療は、あくまで病気の進行と症状を抑えるための投薬治療であって、残念ながら病気そのものを治すものではありません。
それでも進行が急でなく、内科治療に反応してくれる子では、治療期間は何年にもわたることもあり、注意点も病気の重症度やその子の性質によっても様々です。
どの段階であっても、定期的な病院でのチェックが重要になりますので、心配なことがあればすぐに獣医師に相談するようにしましょう。

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