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犬の糖尿病治療の方法や流れは?|獣医師が徹底解説

2022年11月9日

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アニー先生

愛犬が糖尿病に罹ったらどのような治療を進めていくのか、気になりますよね。

今回のアニポスブログは犬の糖尿病の治療について

このアニポス公式ブログでは現役獣医師が飼い主さんの悩みを解決する記事を執筆しています。

前回の記事で、犬の糖尿病の病態と診断について解説しました。

この記事では犬の糖尿病治療の中心となる自宅でのインスリンの注射をはじめ、犬の糖尿病の治療方法や流れについて詳しく解説します。

犬の糖尿病の治療も人とほぼ同じ

犬の糖尿病も、治療の目的は人への糖尿病治療と同じです。

犬の糖尿病も治療の目的は血糖のコントロール

糖尿病とは、本来備わっている血糖値を調節する仕組みが破綻することで、慢性的に血糖値が高くなる病気です。慢性的な血糖値の上昇は、多飲多尿などの症状を引き起こすことで犬と家族の生活の質(QOL)を低下させ、長期的には眼や腎臓の合併症を生じます。治療によって膵臓本来の内分泌機能を正常化させることは難しいため、血糖値を正常に近づけるようにコントロールすることで、これらの症状や合併症の発生を防ぐことが、犬の糖尿病の治療の目的になります。

基礎疾患の治療や併発疾患のコントロールが大切

「いかに血糖値をコントロールするか」

が糖尿病の治療の要点であり、そのために重要なポイントの一つとして、基礎疾患や併発疾患の管理が挙げられます。

診断編でも触れましたが、糖尿病の基礎疾患として内分泌疾患(副腎や卵巣の病気など)や、併発疾患として感染(特に細菌性の膀胱炎)などが見られることがあります。これらを治療することで、例えば基礎疾患が糖尿病の単一の原因であった場合には、糖尿病が治ってしまうこともありますし、そうでない場合でも、治療しない場合と比べて血糖値のコントロールが容易になります。

また、未避妊の雌犬の場合、発情時のホルモンがインスリンの作用に影響を及ぼすため、可能であれば避妊手術を行うことが効果的な治療を行う上で重要となります。

犬の糖尿病治療の3つの療法

犬の糖尿病治療療法は大きく3つ
・食事療法
・運動療法
・薬物療法

ヒトの糖尿病の治療として、食事療法、運動療法、薬物療法がありますが、犬の糖尿病でも基本的な考え方は同じです。

犬の糖尿病の食事療法とは?

食事療法で一番重要なのは、毎日決まった時間に決まった量の食事を与えることです。

自宅でのインスリン注射は基本的には決まった量を決まった時間(1日2回)注射するので、食事の量や内容、時間が不規則だと、血糖コントロールが不安定になる恐れがあります。また食事が体質に合わず、下痢や嘔吐症状が出る子もいます。

健康な子であれば多少これらの症状があっても問題にはなりませんが、糖尿病の子ではインスリン投与時にこれらの症状がでることで、低血糖のリスクが高まります。

糖尿病の子の食事を選ぶ2つのポイント
・安定して食べてくれる(=本人が好んでくれる)こと
・体調管理に適した質の良いご飯であること

糖尿病の子の食事を選ぶ上で重要なのは、安定して食べてくれる(=本人が好んでくれる)こと、体調管理に適した質の良いご飯であることです。好んで食べてくれる子であれば、糖尿病用の処方食を用いることもあります。これらの処方食は食後の急な血糖値の上昇を抑えてくれるので、より血糖管理が容易になります。

ただし、糖尿病用の処方食の優先度は高くないので、他に食事による管理が重要な病気(例えば消化器疾患、アレルギー、腎臓病など)があり、それらに対する食事療法が必要な場合は、そちらを優先する方が良いとされています。

犬の糖尿病の運動療法とは?

運動療法については、あまり厳密に管理する必要はなく、適度な運動で体型と筋肉量を維持すると良いでしょう。食事と同様、運動も血糖値に影響するので、可能な限り毎日の運動量や時間を一定にすることで、急激な血糖値の変動を防ぐことができます。インスリンによる治療を受けている子が急に過度の運動をすると、低血糖に陥るリスクがあるため注意が必要です。

犬の糖尿病の薬物療法はインスリン注射が中心

ヒトの糖尿病治療には様々な薬が用いられます。代表的なものとしてインスリンの注射があり、これは皆さんイメージしやすいかと思います。ヒトの場合はその他の治療薬として飲み薬と注射があり、薬の作用としては、インスリンの分泌や効きを良くするものや、食事からの糖の分解や吸収を抑えるものなどがあります。

犬の場合、残念ながらインスリンの注射以外の治療薬はあまり効果的ではありません。

そこで、治療の中心はインスリン注射となります。使用されるインスリンは、多くはヒト用のインスリンであり、一部動物専用に作られたインスリン製剤もあります。

様々なインスリン製剤

インスリン製剤には様々な種類があります。上の写真には、動物病院でよく使われる代表的なインスリン製剤を載せていますが、他にも動物に使用可能なインスリンはありますし、ヒトではさらに多くのインスリンが使い分けられています。インスリンは作用時間(どれくらいで効き始めて、どのくらい持続するか)によって分けられており、作用発現の早い順に超速効型、速効型、中間型、持効型があります。これらを混ぜた混合型と呼ばれるインスリンもあり、より細かい血糖値の調節が必要な場合に使われることもあります。

犬の糖尿病治療にインスリンを使用するときの2つの注意点とは?

1.その個体に適したインスリンを選択しましょう

犬でインスリンを使用するときの注意点はいくつかありますが、一つはその子に適したインスリンを選択することです。ヒトではどのような効き方を期待するかによってインスリンを選択しますが、動物の場合は個体差も大きいため、実際に投与して効果時間を確認しながら決めていきます。一般的には、同じインスリン製剤の場合、体が小さいほど持続時間が短くなるため、小型犬や猫の場合は持効型、中型犬以上では中間型のインスリンが第一選択としてよく使われます。

2.インスリンは専用の注射器が必要です

もう一つ注意が必要な点としては、インスリンは専用の注射器が必要であることです。

動物病院から処方される場合は注射器もセットで処方させることがほとんどなので間違いは起こりにくいと思いますが、ヒトの医療においてもインスリンの投与量の間違いは起こることがあるようです。

インスリンの投与量は(U=ユニット)という独自の単位が使われます

インスリンの投与量には「単位(U=ユニット)」というものが使われています。

「この子は中間型インスリンを朝夕3単位ずつ」「この子は持効型インスリンを朝夕2単位ずつ」といった言い方をします。

ヒト用のインスリンであれば、100単位=1mlなので、1単位=0.01mlとなります。この微量のインスリンを投与するために専用の注射器があり、インスリンを投与する時には必ずこの専用注射器を使用します。さらに補足すると日本で入手可能な動物用インスリンは40単位=1mlなので、こちらを使用する時はまた別の専用注射器が必要になります。

犬の糖尿病治療の実際の流れとは?

実際に犬が糖尿病と診断された時の、治療の流れについて解説します。当然ながら、個々の状況によって治療は大きく異なるため、大まかな説明になりますが、糖尿病と診断されたワンちゃんとご家族の参考になればと思います。

1.糖尿病の診断がついた時点で、他の病気や体調を改めて評価

まず、糖尿病の診断(診断編にまとめています)がついた時点で、他の病気や本人の体調を改めて評価します。糖尿病に影響する基礎疾患がある場合や、本人の体調自体が悪い(元気食欲がない、下痢嘔吐があるなど)場合は、そちらの治療が優先されます。その際に血糖値のコントロールが必要な場合は、獣医の手でインスリンの注射や点滴がされることもありますが、よく想像される自宅でのインスリン投与に関しては、本人の体調が良好であることが必要条件となります。

2.適切なインスリン製剤と量を探していくことが初期の目標

最初のうちは、適切なインスリン製剤と量を探していくことが主な目標となります。先に少し述べたように、最初のうちは色々なインスリン製剤を色々な量で投与して反応を見る必要があるため、どうしても通院や検査の頻度は多くなってしまいます。以前は病院でしか血糖値の測定が出来なかったため、一日のうち何度も病院で検査を受けたり、預かりや入院が必要でしたが、最近では自宅で血糖値を測定できる機器があるため、それらを利用することで通院の頻度を減らすことも可能です。

動物用の簡易血糖測定器画像1
動物用の簡易血糖測定器 例1
動物用の簡易血糖測定器画像2
動物用の簡易血糖測定器 例2

写真は動物用の簡易血糖測定器です。中央の試験紙を機器(左)にセットし、少量の血液(耳たぶから取ることが多い)を付けて測定します。その時点での血糖値しか測れませんが、いつでも好きなときに測定が可能です。

動物で使用可能なヒト用の持続型血糖測定器画像
動物で使用可能なヒト用の持続型血糖測定器(左から、リーダー、被膜スプレー、測定用センサー、センサー設置用アプリケーター)
センサーを装着した犬画像
センサーを装着した犬

写真は動物で使用可能なヒト用の持続型血糖測定器とセンサーを装着した犬です。

動物の脇腹〜腰のあたりにセンサーを設置します。センサーの下部には小さな針のようなものがついており、これが皮下に入ることで血糖値を測定します。リーダーをセンサーにかざすことで、その時点での血糖値を見ることが出来ます。センサーは剥がれなければ2週間使用可能で、必須ではないですが剥がれにくくするために被膜スプレーなどを使用することがあります。

3.自宅でのインスリン投与に徐々に切り替え

ある程度、最適なインスリンの種類や量が決定したら、自宅でのインスリン投与に徐々に切り替えていき、通院の間隔も減らしていくことが可能です。多くの病院ではこれまでの間に、獣医からインスリンの投与について説明を受けたり、一緒に注射の練習をする機会があると思うので、不安なことや分からないことはしっかり聞いておきましょう。また、インスリン量が決まって安定していても、徐々に効きが変化したり、少しずつ血糖コントロールがずれていくこともあるので、獣医師と相談しながら定期的なチェックをした方が安全でしょう。

インスリン治療時は一日の中で血糖値の変動を細かく評価を

インスリン治療時には、一日のうちに何度も血糖値を測定し、血糖値の変動を細かく評価することがあります。測定した血糖値をグラフにすると下のようになるので、よく「血糖曲線」と呼ばれることがあります。これを理解してもらうと、インスリン治療時の注意点についても理解しやすくなると思います。

1日2回の食事とインスリン投与を受けている犬の血糖曲線画像

この図は、典型的な例として、1日2回の食事とインスリン投与を受けている犬の血糖曲線を示しています。あくまで例として理想的な血糖の変動を示していますが、一般に食事と同時にインスリン投与を受け、その後ゆっくりと血糖値は低下し、また徐々に上昇して元の血糖値まで上がるくらいで夕方の食事とインスリン投与を受ける、といった流れになっています。

1日2回の食事とインスリン投与を受けている犬の血糖曲線画像2

インスリンの作用を評価する時は、このように長さ(持続時間)と強さ(血糖降下作用)の2つに分けて考えます。長さは1日2回投与の場合、およそ12時間で元の血糖値に戻るくらいが良く、この作用の長さは主にインスリン製剤の種類(と体質との相性)によって決まります。作用の強さについては、主にインスリンの投与量で調節しますが、例え最低血糖が低血糖の範囲に入っていなくても、最高血糖と最低血糖の差が大きすぎると、体は急激な血糖値の降下に対応しようとしてしばらく高血糖になってしまうので、その後のコントロールが難しくなってしまいます。

1日2回の食事とインスリン投与を受けている犬の血糖曲線_高血糖と低血糖領域追加画像

このグラフに、高血糖と低血糖の領域を加えるとこのようになります。もちろん1日を通して、どちらにも入らない範囲(つまり、白の領域)でコントロールするのが理想ですが、実際には難しくどちらかには入ってしまいます。短期的に生命にリスクが大きいのは低血糖なので、最低血糖は低血糖ゾーンに入らない程度で(やや余裕をもって)設定します。その結果、高血糖ゾーンに入ってしまう時間がどうしても出来てしまうこともありますが、この時間が長いと尿糖や多飲多尿といった症状が出てしまうので、この時間はなるべく短くなるようにコントロールを行います。

このグラフの場合、朝夕の食事のちょうど真ん中、つまり食後6時間で作用のピーク(最低血糖)を迎えますが、インスリンの種類や体質によっては、ピークが早かったり(食後3-5時間)、遅かったり(食後7-9時間)と様々ですので、その子の血糖曲線を知っておくと、低血糖のリスクが高い時間帯を把握することが出来ます。

1日2回の食事とインスリン投与を受けている犬の血糖曲線_高血糖と低血糖領域追加画像2

犬の血糖コントロールの4つのポイント

血糖コントロールの4つのポイント
1.作用時間は1日2回投与の場合、12時間程度(主にインスリンの種類で調節)
2.最高値と最低値の差があまり大きくなりすぎないように(インスリン量と、食事内容などで調節)
3.高血糖の時間が出来てしまう場合はなるべく短く
4.低血糖にはならないよう多少余裕をもたせておく

ここまでをまとめると、血糖コントロールのポイントは上記の4つとなります。実際にはこれらすべてを達成することは難しい場合も多いですが、これらを意識してインスリン治療を行うことで、糖尿病の愛犬がより普段通りの生活をおくりやすくなります。

まとめ

今回は、犬の糖尿病の治療についてまとめました。

糖尿病の治療の目標についてはどの子も同様ですが、インスリン治療への反応や基礎疾患の有無などそれぞれの状況が異なるため、最適な治療を組み立てるのは容易ではありません。

インスリン治療のポイントを把握して、かかりつけの先生としっかり相談しながら、より良い糖尿病治療を実施する上で本記事が参考になれば幸いです。

アニー先生
アニー先生

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