私たちの生活に根付き、すっかり家族の一員となったペットの動物たち。
その動物達の健康を守る”お医者さん”が、動物病院の獣医師(獣医)の方達ですが、獣医師は”ペットのお医者さん”のみではなく、知られざる分野を専門とする先生達もいます。
このアニポス公式ブログでは現役獣医師が飼い主さんの悩みを解決する記事を執筆しています。
この記事では、「獣医師の知られざる分野」を少し深掘りしていきます。動物病院で接する先生の見方が少し変わるかもしれませんよ。
もくじ
多種多彩な分野で活躍する獣医師
1. 犬・猫などの小動物や牛・豚・鶏・馬などの産業動物の健康を管理
2. 公務員として家畜伝染病の防疫や動物検疫といった家畜衛生、人獣共通感染症の予防や食肉等の食品の衛生を監視する公衆衛生に貢献
3. 大学や研究所などで獣医学に関する研究や獣医学生の教育
4. 野生動物対策や動物園動物等の管理を行う、野生動物専門
5. 医師と協力して実験動物を管理、バイオメディカル分野で人の医学の発展に貢献
獣医師のメジャーな分野としては、皆さんにもなじみの深い、犬・猫などの小動物や牛・豚・鶏・馬などの産業動物の健康を管理する動物診療獣医師があります。
次に、公務員として家畜伝染病の防疫や動物検疫といった家畜衛生、狂犬病をはじめとする人獣共通感染症の予防や食肉等の食品の衛生を監視する公衆衛生に貢献する獣医師がいます。
その他にも、大学や研究所などで獣医学に関する研究や獣医学生の教育に携わる獣医師や、野生動物対策や動物園動物等の管理を行う、野生動物を専門とする獣医師がいます。
そのほかに、医師と協力して実験動物を管理する等、バイオメディカル分野で人の医学の発展に貢献する獣医師など、主な活動分野だけをあげても獣医師がいかに幅広い職域で多岐にわたる活動を行っているかがうかがえます。
獣医師はすべての動物の「いのち」をその活動対象に
つまり、獣医師は一般に知られているような動物診療活動のみではなく、幅広い活動を通じで、動物、ひいては人の健康にも大きく係わっており、かけがえのない地球上に息づくすべての動物の「いのち」をその活動の対象としていると言っても過言ではありません。
知られざる獣医師の分野・食品衛生と公衆衛生分野
多種多様な活動分野をもつ「獣医師」の中でも、今回は、食の安全確保や人獣共通感染症対策など、世の中にあまり知られていない獣医師の役割についてお伝えしたいと思います。
1. 肉、牛乳、魚介類など食品衛生分野
まずは「食の安全確保」についてです。われわれが、日常的に口にしている肉や牛乳あるいは魚介類などの食品。そのおいしさの陰にはその安全を確保するために獣医師の目がしっかりと行き届いています。現在、スーパーマーケットなどで販売されている牛肉や豚肉などの食肉は、他の多くの食品とは異なった特別な検査制度が設けられています。この制度によって、家畜は1頭毎に公的な検査を受け、その検査に合格したものだけが食肉として販売されます。検査に合格しなかったものは販売できません。肉以外にも、牛乳や魚介類などあらゆる食品について製造施設、市場あるいは販売店などで、また、輸入食品については輸入時点で、それぞれ獣医師をはじめとする食品衛生監視員によって検査や取り扱いについての指導が常時行われています。
2. 狂犬病をはじめ人獣共通感染症を予防する公衆衛生分野
ヒトの健康を守るために必要な生活環境の衛生にかかわる監視・指導業務も獣医師などの環境衛生監視員が担っています。動物とヒトが共通して感染する「人獣共通感染症」の中でもっとも怖い病気のひとつである狂犬病の予防も公衆衛生分野で活動する獣医師の重要な仕事。そのほかの人畜共通感染症についても国立感染症研究所、各都道府県の衛生研究所などの獣医師が調査活動、研究活動を通じてその対策に取り組んでいます。さらに、厚生省検疫所では、海外からエボラ出血熱、マールブルグ病などの感染症が国内に侵入するのを防止するため、獣医師も検疫官として検疫業務に従事しています。
人獣共通感染症とは?
人獣共通感染症は、人と動物双方に感染する共通感染症です。
人の感染症の約60%を占めると言われており、新型コロナウイルスや牛海綿状脳症(BSE)、鳥インフルエンザなど国内外で大きな社会問題となった病気がたくさんあります。また、近年新たに発見された「新興感染症」の約75%にあたるともされ、WHO(世界保健機関)で確認されているものだけでも200種類以上あります。これらの感染を防ぐには、病原体を保有している動物や食品など(感染源)、飛沫感染や接触感染などの病原体が体の中に侵入する経路(感染経路)、ウイルスや細菌などに寄生される生き物(宿主)の3つの要因への対策が必要です。
病原体の排除や侵入経路の遮断、免疫力の向上のため、日ごろから手洗い・咳エチケット等の基本的な感染防止対策や感染予防のための口腔ケアを行いましょう。
また、ペットと触れあったあとは手を洗う、草やぶなどに入る際は長袖・長ズボンを着用するなど、動物やダニなどからの感染に注意しましょう。
私自身は、大学卒業後、小動物診療獣医師として犬猫の診察・治療にあたってきましたが、大学時代の同級生には公務員獣医師として、食の安全確保や人獣共通感染症対策を行っている仲間がいます。一般の方の目に触れる機会はなかなかありませんが、安全な食肉の流通を担う仕事に、大きなやりがいを感じているという話を聞いたことがあります。

人獣共通感染症についてはこちらの記事もぜひ。
まとめ
今回は、食の安全確保や人獣共通感染症対策などで活躍する公務員獣医師の仕事の内容の一部をご紹介させて頂きました。ひとくちに「獣医師」といっても、その活動分野が多岐にわたることを、この機会で知って頂ければ幸いです。

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著者・桑原慶先生のプロフィール
福岡市中央区唐人町のくるみ動物病院院長・獣医循環器認定医。2019年4月獣医循環器認定医資格取得。
【所属医師会】福岡県獣医師会・福岡市獣医師会・日本獣医循環器学会・九州画像診断研究会